フロントエンジンフロントドライブ、通称「FR」と称される車体前方にエンジンを搭載する後輪駆動車は、優れた前後重量配分を持ちます。そしてFR車は旋回をフロントタイヤで行い、加速をリアタイヤで行うため、ハンドリングのバランスが良く、高い運動性能を発揮します。ただ、フロントにエンジンを積み、駆動力を後輪に伝えるデファレンシャルをリアに搭載するので、フロントからリアまで一連のドライブトレインが必要になり、部品点数が多く生産コストが高くなる傾向にあります。
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この記事ではFR車が持つ「レイアウト・生産性・ハンドリング特性」などの特徴についてシェアさせて頂きます。
Contents
1.FR車のレイアウトと特徴
フロントにエンジン/トランスミッションを連結して縦置きに搭載し、プロペラシャフトを介して、リアに動力を伝達し後輪を駆動させる方式の総称を「FR」と呼びます。FRレイアウトを持つ後輪駆動車は、前後重量配分が優れているので多くのスポーツカーに採用されています。
FR=フロントエンジンリアドライブ
自動車業界では、フロントのエンジンルーム内にエンジンがあることを「フロントエンジン=F」と称し、後輪が駆動することを「リアドライブ=R」と称してFRと呼びます。
エンジンが前に搭載されている後輪駆動車を、FRレイアウト持つ自動車としてFR車とも呼びます。
フロントエンジンからの動力は、プロペラシャフトでリアに伝達され、デファレンシャルギアを介すことで駆動力に変換されます。
FRレイアウトはスポーツカーや大型エンジンを搭載するセダンやサルーンに多く用いられる駆動方式です。また粘着重量の観点からも中型や大型のトラックにはFRレイアウトが採用されています。
エンジン・ミッション縦置き構造が特徴
FRレイアウトの後輪駆動車は、エンジンとトランスミッションが直列に連結された縦置き構造を持っています。
「エンジン立て置き」の定義としてはピストンによって動かされるクランクシャフトがエンジンルーム内の車体中心線に沿って搭載されている状態を示します。
多くのFR車はエンジンとトランスミッションが直列にドッキングされ、ミッション後部から出たプロペラシャフトをリアに搭載されているデファレンシャルギアと連結し、後輪駆動を実現しています。
このようにFR車は、エンジンからデファレンシャルまでの全てのドライブトレインが縦置きにレイアウトされる特徴的な構造を持っています。
2.FRレイアウトの生産性
FR車はフロントにエンジンを置き、動力をリアに伝達するという、凝った設計なので部品点数が多くなり、組み立て工数も増えるので、生産コストは高くなります。FRレイアウトは車体重量バランスを考慮しながらも室内空間を広く取れるので高級セダンやサルーンの設計にも多く採用されます。
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重量配分を意識した贅沢な設計
FRレイアウトは前後重量配分を意識した設計となっており、この駆動レイアウトを採用する自動車もFRレイアウトの利点が必要なモデルとなります。
FRレイアウトが採用される生産車の代表格的なカテゴリーは運動性能を意識した「スポーツカー」と高級車のイメージがある「セダン・サルーン」となります。
運動性能を高めるスポーツカー
国産のスポーツカーの多くがFRレイアウトを採用しています。
多くのスポーツカーにFRレイアウトを採用する理由は「重量配分と後輪駆動による高い運動性能」と「フロントエンジンリアドライブによる室内空間の確保」という2点が実現可能な設計だからです。
大きなエンジンを搭載する高級セダン
セダンやサルーンといった大人の高級車もFRレイアウトを採用する車種が多いです。セダンやサルーンにはカテゴリー的な車格から大型のエンジンを搭載する必要があるからです。
FFレイアウトではパワートレインを搭載できない、または重量バランスが大きく悪化することを懸念し、FRレイアウトを用いた設計を取り入れる自動車メーカーが多いです。
分品点数が多く生産コストが高い
生産性よりもFRレイアウトの必要性やメリットを活かす為に、限られた車種に採用されるフロントエンジンリアドライブ設計ですが、単純に生産性を見ると部品点数も多く、組立工程も増加するので生産性は悪いと言えます。
自動車メーカー側からの視点で診れば、ローコストで生産できるFFレイアウトの方が販売台数も増え、利益が見込めると言わざる終えません。
動力と駆動を分けた複雑な構造
FRレイアウトはエンジンとトランスミッションが立て置きのレイアウトを持ち、プロペラシャフトを使ってリアに搭載されるデファレンシャルに動力を伝達し、後輪を駆動させています。
つまり、FF車に比べるとFR車はリアに別単体で置かれるデファレンシャルとプロペラシャフトというデバイスが部品点数を増やし、生産コストを増加させてしまいます。
更に深堀すると、トランスミッションとドライブシャフトを立てに搭載する為に、車体にもフロアトンネルを設ける必要があり、複雑な車体パネルを設計/生産する必要があります。
複雑な構造故に組立工程が多い
FF車に比べるとFR車は部品点数が多いので、自動車の組み立工程も時間も多く必要になります。
また、FFレイアウトのようにエンジンとミッションを連結させた状態で車体に搭載することができないので、FR車の場合は車体上方からエンジンを搭載し、その後で車体下方からトランスミッションを搭載する必要があります。
このようにFRレイアウトを持つ後輪駆動車の組立は、ドライブトレインの搭載に手間と時間を要することも生産性の悪化を招き、コストが高くなってしまう理由に挙げられます。
そして「二輪駆動車」、通称「二駆」とよばれる自動車の中で、FR車はドライブトレインに最も部品点数が必要なので、車体重量が重くなるというデメリットも持ち合わせています。
FF車について詳しく知りたい方は下の記事をご参照ください。
3.FR車のボディーバランス
FRレイアウトはエンジンとトランスミッションを縦置きにマウントし、リアにプロペラシャフトとデファレンシャルを搭載する為、優れた前後重量バランスを持ちます。さらにドライブトレインが車体のセンターに搭載されることで、前後だけでは無く、左右のバランスも良好です。
FR車は前後重量配分に優れる
FR車は、ドライブトレインのレイアウトから優れた前後重量配分を持ちます。
ある程度重量があるエンジンをフロントにマウントすることで、フロントタイヤの荷重を稼ぎ、縦置きにマウントされたミッションは車体のセンター付近に置かれます。
そしてプロペラシャフトやデファレンシャルはリアよりにマウントされるため、リアタイヤの軸重もある程度稼げるため、リア荷重もかかります。
このようにフロントからリアまで重量物がレイアウトされることでFRレイアウトを持つ後輪駆動車は前後重量バランスに優れている傾向があります。
前後重量配分50:50を実現できるのはFRだけ
世の中に存在する自動車のドライブトレインレイアウトの中で、FRレイアウトは最も優れた前後重量バランスを実現できます。
まず、FF車はフロントに重量物が集中するのでフロントヘビーに、RR車はリアオーバーハングよりに重量物が集中するのでリアヘビーに、MR車は優れた前後重量を持ちますが、リアよりの重量配分となります。
そしてAWDもエンジンミッション縦置きであっても、フロントに駆動を伝えるデファレンシャルや、ドライブシャフトによってフロントヘビー傾向を示します。
前後にバランスよくドライブトレインをレイアウトできるのはFR車だけで、前後重量バランス50:50を実現できるのもFRレイアウトを持つ後輪駆動車だけなのです。
4.FR車のハンドリング特性
FRレイアウトを持つ後輪駆動車は「優れた前後重量配分・後輪駆動」という構造上の特性によって優れたハンドリング特性を示します。良いボディバランスと駆動していないフロントタイヤがニュートラルステアを示し、気持ちの良いコーナリングを実現します。
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駆動方式から得られる高い旋回性能
FRレイアウトを持つ後輪駆動車は、優れたハンドリング特性を実現するために適した設計です。
まず、FR車はフロントタイヤは駆動していないので、ハンドルの操舵による旋回に1フロントタイヤを100%使う可能です。そしてリアタイヤは駆動輪となるので、加速にリアタイヤを100%使うことができます。
つまり、フロントタイヤはコーナリングでの舵を取るためだけに使え、リアタイヤは車を前に進める加速のみに使えるので旋回加速のバランスが良い駆動方式と言えます。
優れた重量配分によるニュートラルステア
FR車はフロントにエンジンを搭載しているので、フロント軸に重量が発生し、フロントタイヤに荷重がかかります。
適度なフロント荷重が発生しますが、FF車にようにフロントヘビー特性は示し難いので、慣性モーメントの影響によるアンダーステア特性は表れません。
さらにフロントタイヤは駆動輪では無く、旋回する為に、100%使用することができるので、優れた前後重量配分も伴いニュートラルステア特性を示し優れたハンドリングバランスを生み出します。
MR車やRR車より遥かに素直な回頭性を見せますが、リア荷重が少ないため、トラクション性能は劣ります。
つまり、後輪駆動車の中でFR車は、コーナリングの進入は頭の入りが一番良いが、トラクション性能は一番低いというハンドリング特性を持ちます。
このFR車の旋回性能を犠牲にせずに、トラクション性能を高める為に生まれた設計が「フロントミッドシップレイアウト」です。
FR車の重量配分を極めたフロントミッドシップレイアウト
FR車の利点である、旋回性能を維持したまま、弱点であったトラクション性能を高めた設計がフロントミッドシップレイアウトです。
フロントミッドシップレイアウトによって前後重量配分は50:50を実現し、フロントエンジンであっても駆動輪に車体重量の半分もの重さ=荷重がかかるので、駆動輪のトラクション性能が高まります。
フロントミッドシップレイアウトを実現するには、ロングノーズショートデッキという方式とトランスアクスルという方式の2つの設計方法があります。
ロングノーズショートデッキはエンジンルームを長く取り、リアタイヤ前方にコクピットを設ける設計方法で、エンジンをフロントタイヤ軸以降に搭載します。
トランスアクスル方式はフロントはエンジンのみを搭載し、リアにトランスミッションとデファレンシャルを搭載し前後重量バランス改善するレイアウトです。