アストンマーチンバンテージトランスアクスル

優れた前後重量配分はトランスアクスルによって実現できる

トランスアクスルとは、トランスミッションとデファレンシャル一体化したドライブトレインのことです。一般的にトランスアクスルはFR車のリアセクションに搭載されるため、フロントエンジン車でありながらも優れた前後重量配分を実現できます。この利点を生かし、大型エンジンを搭載するFR車やフロントヘビーになりやすいAWD(四輪駆動車)に採用される駆動系レイアウトです。

トランスアクスル
出典:wikiwandより

この記事ではスポーツカーに採用されるトランスアクスルについての解説をシェアさせて頂きます。

 

 

 

 

1.トランスアクスル構造とは

トランスアクスルとはトランスミッションとデファレンシャルを連結し、一体化した動力伝達機構(ドライブトレイン)です。主にFR車に採用される駆動レイアウトで、重量物であるミッションとデファレンシャルをリアに搭載することで優れた前後重量配分を実現できます。

レクサスLFA
出典:LEXUSより

 

 

ミッションとデファレンシャルが融合

一般的なFRレイアウトを持つ後輪駆動車は、エンジンとトランスミッションを縦置きに搭載して、プロペラシャフトによって、リアのデファレンシャルに動力を伝達していました。

従来のレイアウトでは、前後重量配分が、フロント寄りに配分され、フロントヘビーになりやすい傾向がありました。

この前後重量配分を最適化する為に、開発された技術がトランスミッションをデファレンシャルを一体化してリアに搭載する「トランスアクスル」なのです。

トランスアクスル構造とは、フロントのエンジンルームにはエンジンのみを搭載し、エンジンから伸びたプロペラシャフトはリアに搭載されるトランスミッションとデファレンシャルへと繋がれることで、フロントエンジンながら優れた前後重量配分を実現します。

 

 

 

トランスアクスルを採用している車種

主にスーパーカーと呼ばれるようなスポーツカーや、モーターとエンジンを搭載するハイブリッド車にトランスアクスル構造は採用されています。

 

 

 

 

生粋のスポーツカー

FRのスポーツカーではフェラーリ、マセラティ、ポルシェのFRモデルである「924・944・968・928」、アストンマーチンのバンテージ、シボレーコルベット、レクサスLFA/レクサスLCFなどの高級FRモデルにトランスアクスルは採用されています。

ポルシェ944トランスアクスル
出典:ポルシェより

そしてAWD(四輪駆動車)では日産のR35GTRがトランスアクスル構造を採用し、大型エンジン+フロント駆動によるフロントヘビー特性を軽減しています

 

 

EV/PHEV車両

ハイブリット車にはエンジンとモーターの二つの動力機構が搭載されています。

多くののEV/PHEV車ではモーター駆動の為にハイブリッドトランスアクスル/モータートランスアクスルなどと呼ばれるトランスアクスルを搭載しています。

 

 

 

 

 

2.トランスアクスル構造のメリット

トランスアクスル構造が生み出す最大のメリットは「前後重量配分の最適化」です。リアにトランスミッションを搭載することでリア車輪軸荷重を稼ぎ、トラクション性能を高め、フロントにもエンジンが搭載されるのでフロント車輪軸荷重がかかるので旋回/加速共に高い運動性能を発揮します。

アストンマーチンバンテージトランスアクスル出典:pixabayより

 

 

優れた前後重量配分を実現

スポーツカーの優れた運動性の根幹は、優れた前後重量配分によって生み出されます。

前後重量配分はコーナリングやトラクションといった車の運動性能を決定する重要な要因であり、後から変更することができない素性です。

前後重量バランス

フロントにエンジンのみを搭載し、リアにミッション/デファレンシャルというトランスアクスル構造は、ホールベース内の前後に重量物をバランス良く配置できます。

フロントエンジンはフロントタイヤと運転席の間に、トランスアクスルはリアシートとリアタイヤの間に配置されることで車にとって最も重要な前後重量配分の最適化を成し得る駆動構造です。

そして、優れた前後重量配分である50:50を実現できるのはトランスアクスル構造を含む、FR車だけなのです。

 

 

高いコーナリング性能実現

トランスアクスルを採用するスポーツカーは主にフロントにエンジンを搭載するモデルです。

フロントにエンジンを有する後輪駆動車は、フロントエンジンによる重量(荷重)が常にフロントタイヤにかかるので、素直であり高い回頭性を持ちます。

この優れたハンドリング特性に磨きをかけるレイアウトが、フロントにエンジンを積みながらもリアにも大きな荷重(重量)を分配できるトランスアクスル構造です。

つまり、トランスアクスルを持つスポーツカーはフロントタイヤにもリアタイヤにも常に荷重がかかる構造なので、常に高いグリップ力を得られ、高いコーナリングフォースを発生することができます。

さらに、トランスアクスルは全ての重量物を、なるべく車体の中央に近づくようにレイアウトできます。その結果、前後のオーバーハングが軽くなり慣性モーメントの影響を受けにくいレイアウトとも言えます。

 

 

 

運動性能と室内空間を両立

フェラーリやマクラーレンなど一部のスーパーカーに採用されるMRレイアウトは重量物を車体センター付近に搭載し、高い運動性能を実現しています。

しかし、MRレイアウトは室内とエンジンルームが近接する為、騒音が大きく室内空間も広く取れない為、快適性を損ないやすい設計と言えます。

一方、トランスアクスル構造では、フロントにエンジンが搭載されるので、室内の静穏性が実現可能となります。

さらに、リアにも荷重が分配できるので駆動輪のグリップが高く、スポーツカーに必要な運動性能と快適性の両立が可能です。

 

 

高いトラクション性能を実現

運動性能だけを追求すると、重量物であるエンジン/トランスミッションを車体中央付近にレイアウトできるMR「ミッドシップエンジン・リアドライブ」が、究極の駆動方式といえます。

モータースポーツの頂点に君臨するF1「フォーミュラー1」もMRレイアウト採用しており、スーパーカーに代表されるフェラーリや、パガニーニも同様にMRを採用しています。

しかし、FRレイアウトであってもトランスアクスル構造を採用することで、ミッドシップレイアウトに劣らない高いトラクション性能を獲得することが可能です。

レクサスLFAはFR駆動でありながら前後重量バランス48:52を実現し、フロントエンジンによる高い回頭性とMR車に引けを取らないトラクション性能を手に入れ、高い運動性能を実現しています。

 

 

大型エンジンを搭載できる

アメリカを代表するスーパーカーであるコルベットは、6.2リーターV型8気筒という大排気量パワーユニットをフロントに搭載しています。

コルベット出典:pixabayより

この巨大で重たいエンジンを用いて、FRレイアウトを採用するコルベットの前後重量配分は50:50を実現しています。

大型エンジンを搭載しても、優れた前後重量配分を実現できた理由が、トランスアクスル構造の採用です。

つまり、ミッション/デファレンシャルという重量物をリアに搭載するトランスアクスル構造を採用することで、リアの駆動輪にかかる重量(荷重)を確保し、エンジンルームの空間/積載重量にも余裕を設けることが可能です。

その結果、フロントに大型エンジンを搭載することが可能になり、優れた前後重量配分をキープすることが可能なのです。

 

 

 

 

 

3.トランスアクスルを採用するデメリット

トランスアクスルの大きなデメリットは生産コストが高いことと、複雑な構造故に整備性が悪いことです。整備性の悪さは、高額な整備費用を必要とし、生産コストの高さは、故障すると修理費用が高くなるというデメリットを生みます。

自動車整備出典:pixabayより

 

 

高い生産コスト

トランスアクスルは「複雑な構造・部品点数の多さ」からシステム開発費用(パーツ単価)が高くなってしまうので、搭載される車種もおのずと高級な車になってしまいます。

そして複雑な構造を持つため、ドライブトレインの搭載や、静穏性を考慮したシャーシ設計が必要となり、生産者自体の価格も高価な物となってしまいます。

 

 

限られたモデルにしか採用できない

トランスアクスルは複雑な構造と特殊なレイアウト、部品点数が多いという特徴を持つため、コストパフォーマンスが重視される大衆車への導入は難しいです。

つまり、限られた車種にしか搭載できない技術的デバイスと言え、限られた車種のためだけに開発/生産を行わなければならないのです。

こうなると、大量生産が難しく、一つ一つの生産コストは高くなってしまい、結果的に高価な車種にもの搭載されるシステムとなります。

 

 

 

整備性が悪い

トランスアクスルは一般的なFR車とはレイアウトが異なり、複雑な機構を持つため整備に手間と時間がかかります。

つまり、整備性が悪いデバイスなので、トラブルなどが起きた時の整備費用が、一般的なFR車よりも高価になります。

さらに、生産性の兼ね合いで一つ一つの部品のコストも高いので、故障すると大きな出費を生み出す可能性があります。

 

 

 

 

 

4.トランスアクスル構造を採用すべき駆動方式

トランスアクスルの利点はフロントにエンジンを搭載する車の前後重量配分を改善することです。つまり、フロントヘビーになりやすいAWDやエンジン全長が大きくなる大型エンジンを搭載するFR車とマッチングが良いドライブトレインです。

R35GTR出典:pixabayより

 

 

AWDスポーツカー

トランスアクスルのメリットはフロントにエンジンを搭載する車の前後重量配分をリアよりに配分できることです。

このメリットが活かせる自動車が、フロントにエンジンを積むレイアウトを持つ、AWD(4WD)四輪駆動車です。

AWDはフロントに駆動用のデファレンシャルとドライブシャフトを搭載する為、重量バランスはフロントヘビー傾向を示します。

AWDはこのフロントヘビー特性と4輪駆動によるプッシュアンダーでコーナリング時に強いアンダーステア特性を示します。

このハンドリング特性を改善する為には、前後重量配分の改善が必要不可欠なので、トランスアクスルはAWDの重量バランスを改善する為に、最適なドライブトレイン構造なのです。

 

 

 

大排気量FRスポーツカー

V型8気筒エンジンやⅤ型10気筒エンジンなどの大排気量大型エンジンをフロントへ搭載する場合にもトランスアクスル構造は大きなメリットを発揮します。

コルベットV8エンジン出典:pixabayより

エンジン全長が長い大型エンジンは、エンジン/ミッション縦置きの一般的なFRレイアウトだと、前後重量配分がかなりフロントヘビーになります。

その結果、車体その物の運動性能が低下し、せっかくのハイパフォーマンスエンジンが生かせません。

つまり、大型エンジンを搭載するFR車は、トランスアクスルを採用することで前後重量配分が最適化され、高いパフォーマンスを発揮できるようになります。

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