フロントミッドシップとは、構造的には前輪の車軸よりも後方に、そしてキャビン(運転席)よりも前方にエンジンを搭載することを示します。しかし、フロントミッドシップの目的としては、フロントエンジン車でありながら「前後重量配分を最適化=50:50」を実現する為のレイアウトを意味します。つまり、エンジンをフロントミッドに搭載することで、慣性モーメントの影響を受けにくい状態を作り出し「加速・旋回・減速」という運動性の向上を実現しています。このフロントミッドシップの実現には、ロングノーズショートデッキというボディデザインと、トランスアクスル構造という2つのアプローチが存在しています。
この記事ではFRのレイアウト「フロントミッドシップレイアウト」と「一般的なレイアウト」の特性についてシェアさせて頂きます。
Contents
1.一般的なFR車のレイアウト
FRレイアウトを持つ後輪駆動車の多くは、エンジンがフロント車軸よりも外側にせり出す設計を用います。これは車内空間の確保ができて、有効なスペースを活用できるからです。その一方で、前後重量配分がフロント寄りになってしまうという特徴を持ちます。
出典:pixabayより
フロントエンジンリアドライブとは
通称FR車と呼ばれている後輪駆動車は、フロントにエンジンとトランスミッションを縦置きに搭載し、リアのデファレンシャルへ動力を伝達することで、リア駆動を実現してます。
FR車は、旋回をフロントタイヤで行い、加速をリアタイヤで行うことで、上手くタイヤの仕事量を分担できるため、素直なハンドリング特性を見せます。
FR車の素直な運動性能は車のレイアウトによるボディバランスから得られているので、運動性能を高めたいスポーツカーに多く採用されている駆動方式です。
更に詳しく、FR車の特徴について知りたい方は、下の記事をご参照ください。
一般的なFRの前後重量配分
一般的なFR車のフロントに搭載されるエンジンは「直列4気筒・水平対向4気筒・V型6気筒・直列6気筒」が多く、大体のエンジンがエンジンルームの兼ね合いで、フロント車軸の外側まで出てしまいます。
その結果、多くのFR車では前後重量配分が「53:47=80スープラ/フェアレディZ・52:48=86/BRZ・51:49=90スープラ」などの数値になってしまいます。
つまり、フロントの重量の方がやや重たい、重量バランスを示す後輪駆動車が出来上がります。
一般的なFR車のハンドリング
一般的なFR車はフロントの重量がやや重たく、わずかにフロントヘビーなボディバランスを持ちます。この前後重量配分から成るボディバランスが最終的な車のハンドリング特性を決定します。
わずかにフロントヘビーな自動車の重心は、車体の中心からずれて、やや前方に重心点が存在することを示します。
コーナリングでは重心点が、慣性モーメントの影響を受けますので、一般的なFR車の場合は、車体の中心では無く、やや前方の重心点が外側に引っ張られてしまいます。
つまり、フロントがアウトに引っ張られてしまうので、限界付近では弱アンダーステアなハンドリング特性を示します。
2.フロントミッドシップレイアウトとは
FRレイアウトを持つ後輪駆動車でありながら、前輪軸とキャビンの間にエンジンを搭載するレイアウトをフロントミッドシップレイアウトといいます。フロントミッドシップを採用する多くのFR車では前後重量配分50:50を実現しています。
出典:pixabayより
フロントミッドシップの前後重量配分
フロントミッドシップと定義されるFR車は、重量配分が50:50を示します。
中にはフロントエンジンにもかかわらず前後重量配分が48:52というリアよりの重量配分を実現するモデルも存在しており、この重量配分はフロント車軸よりも、後方にエンジンをマウントすることで実現しています。
つまり、フロントミッドシップレイアウトとは、重量物であるエンジンをフロント車軸よりも後方に、より車体の中心付近に搭載し、前後重量配分の最適化を行うレイアウト方法なのです。
フロントミッドシップが生み出す運動性能
一般的なFR車に比べ、フロントミッドシップレイアウトを持つFR車の「曲がる・止まる・走る」という運動性能は飛躍的に上がります。
この高い運動性能は、優れた前後重量配分から成るもので、優れたボディバランスは慣性モーメントの影響を偏った形で受けないので「コーナリング性能・トラクション性能・ブレーキング性能」というトータル的な運動性を高めます。
フロントミッドシップが生出すコーナリング性能
フロントミッドシップレイアウトでは、前後重量配分の最適化がなされており、それは車体の中心付近に重心点が存在することを示します。
出典:pixabayより
一般的なFR車では、フロントの重量物が慣性モーメントの影響を受けることで最終的にアンダーステア特性を示します。
しかし、フロントミッドシップレイアウトを持つFR車では、慣性モーメントの影響を受ける場所が車体中心付近になるので、限界付近でもニュートラルステア特性を示し、高いコーナリング性能をボディバランスによって発揮します。
フロントミッドシップが高めるトラクション性能
フロントミッドシップという言葉の通り、エンジンルーム後方にエンジンとトランスミッションをレイアウトすることで、前後重量配分が50:50を実現しています。
出典:pixabayより
つまり、フロントの車輪軸に、車体重量の50%ものウエイトが乗り、同様にリアの車輪軸にも50%のウエイトが乗っています。
これは一般的なFR車よりも、はるかに多い重量がリアにかかる事を意味し、リア車輪軸荷重が増加することで高いトラクション性能を生み出します。
フロントミッドシップが持つブレーキング性能
車体の重心点が中央付近にあるフロントミッドシップレイアウトと、車体の重心点が、やや前方に存在する一般的なFRレイアウトのブレーキングには明確な違いが生じます。
出典:pixabayより
ブレーキング時に大きく異なるものが、ブレーキング時の姿勢です。フロントミッドシップレイアウトの方がノーズダイブ量が少なくなります。
ノーズダイブが少なくなることは、一般的なFR車よりもリアタイヤの接地圧が高いことを意味し、リアブレーキの制動力その物の高く設定できます。
つまり、優れた前後重量配分によってブレーキングの姿勢が良くなることで、より高い制動力を発揮させることが可能なのです。
3.フロントミッドシップを実現するレイアウト
フロントミッドシップを実現する為の設計方法は2種類存在します。一つは従来通りのエンジン/ミッション縦置きのままで、前後重量配分50:50を実現する「ロングノーズショートデッキ」というボディデザインです。もう一つは、リアにトランスミッションを搭載し、前後重量配分を最適化する「トランスアクスル構造」を採用することです。
エンジンをフロント車軸後方へレイアウト
フロントミッドシップレイアウトを実現するFR車のボディデザインは、ロングノーズショートデッキと呼ばれる、フロント側が長く、リア側が短いレイアウトを採用します。
このロングノーズショートデッキを用いて、フロントミッドシップを実現する場合、パワーユニットやドライブトレインのレイアウトは、一般的なFR車と同様にエンジン/ミッションを縦置き搭載する方式を採用します。
フロントの長さに余裕があるため、エンジン搭載位置はフロント車軸よりも後方にマウントされるので、優れた前後重量配分を実現する事ができます。
しかし、一般的なFR車に採用されるエンジン/ミッション縦置きレイアウトでは、搭載できるエンジンの長さや大きさに限界があることも事実です。
ホンダのS2000がロングノーズショートデッキボディに直列四気筒エンジンを搭載し、従来通りの縦置きレイアウトで前後重量配分50:50を達成し、フロントミッドシップを実現しています。
ミッションをリアに搭載するトランスアクスル
トランスアクスルとはトランスミッションとデファレンシャルを融合した動力伝達機構(ドライブトレイン)です。
トランスアクスルを用いることで、大きく重たいトランスミッションをリアに搭載することができます。FR車にトランスアクスル構造を適応した場合、リア側に重要物を分散できるので前後重量配分の最適化が可能となります。
そしてリアにミッションを置けることで、フロントのエンジンルームに空間的余裕ができるので、大型のエンジンを搭載することも可能なのです。
例えばシボレーコルベットは、V型8気筒6.2リッターという大型で重量のあるエンジンを搭載していますが、トランスアクスル構造を採用することで、前後重量配分は50:50をキープし、フロントミッドシップを実現しています。
4.フロントミッドシップレイアウトを持つスポーツカー
フロントミッドシップレイアウトを採用するFRスポーツカーは、あまり多く存在しません。国内では「マツダ:RX-7・ホンダ:S2000」海外では「アメリカ:コルベット/バイパー・イギリス:スーパーセブン・バンテージ・ドイツ:BMW」などが前後重量配分50:50を実現しているスポーツカーです。
出典:pixabayより
マツダのFRスポーツカー
日本で1番多くのFRスポーツカーをプロデュースしているメーカーがマツダです。
出典:pixabayより
マツダが生み出した「RX-7/RX-8/ロードスター」という3種類のFRスポーツカーは、エンジンをフロントミッドに搭載し、前後重量配分50:50を実現しています。
RX-7「FC3S/FD3S」
マツダが誇るフラッグシップスポーツカーであった、RX-7には前期型「FC3S」と後期型「FD3S」が存在します。
RX-7はフロントにコンパクトなロータリーエンジンを搭載することで、前後重量配分50:50を実現しています。
RX-7は優れた前後重量配分によるハンドリング特性に定評がありながら、ロータリーターボエンジンを搭載することでとてもパワフルなスポーツカーです。
RX-8「SE3P」
RX-7販売終了後にデビューしたロータリースポーツがRX-8です。RX-8はRX-7と違ってNAのロータリーエンジンを搭載し、スポーツカーでは無く、スポーツセダンに近いカテゴリーでデビューしました。
RX-8はパワーではRX-7に劣りますが、ターボチャージャーがついていない為、重量配分が優れ、RX-7よりも旋回性能が高いと言われています。
ロードスター「NA/NB/NC/ND」
FR車の入門車として親しまれてきた、スポーツカーがマツダのロードスターです。
ロードスターは4回のフルモデルチェンジ重ねていますが、全てのモデルで前後重量配分50:50を実現しています。
優れた操縦性から今でも多くのファンに愛されるスポーツカーと言えます。
ホンダS2000「AP1/AP2」
ホンダ50周年を記念して生産されたスポーツカーがS2000です。
出典:pixabayより
S2000のはオープンカーでありながら、スポーツ走行が可能な「リアルオープンスポーツ」をコンセプトとして開発された特別なスポーツカーです。
S2000はリアルなスポーツ性能を発揮する為に、フロントミッドシップレイアウトを採用し、前後重量配分を50:50を実現しています。
この重量配分を実現する為に、ロングノーズショートデッキというボディデザインを採用しています。
BMWのFRモデル
ドイツのBMWは、代々FRレイアウトに拘りを持ち、生産し続ける自動車会社です。
出典:pixabayより
BMWが作り出すFR車の特徴は、スポーツモデル/大衆モデル問わずに前後重量配分50:50に拘り続けていることです。
BMWが作り出すFR車のボディデザインは独特で、前後のオーバーハングが短い、逆に言えばフロントタイヤもリアタイヤも可能な限り四隅に配置されています。
このボディデザインを採用することで、エンジン/ミッション縦置きという従来通りのFRレイアウトでも、フロント車軸よりも内側にエンジンを搭載できるので、優れた前後重量配分を実現しています。
FMR採用のアメリカンマッスル
アメリカを代表する大排気量FRスポーツに「ダッジバイパー」と「シボレーコルベット」があります。
出典:pixabayより
どちらも大型でパワフルなエンジンを搭載していますが、フロントミッドシップを採用し、前後重量配分は50:50を実現しています。
ダッジ・バイパーシリーズ
アメリカの大排気量FR車の代表格であるバイパーは、フロントに8.0リッターV型10気筒という大排気量エンジンを搭載しています。
とてつもなく巨大なエンジンを搭載していますが、前後重量配分50:50のフロントミッドシップレイアウトを達成しています。
バイパーの優れた前後重量配分は、ロングノーズショートデッキというボディデザインによって生み出されています。
シボレーコルベット
アメリカを代表するV型8気筒エンジンを、フロントに搭載するスポーツカーがコルベットです。
コルベットは、トランスアクスル構造を採用することで、前後重量配分50:50を実現しており、V8エンジンをフロントミッドに搭載しています。
優れた前後重量配分から、高い運動性能を発揮する、アメリカを代表するスポーツカーなのです。
FMRを採用している国産車(日本)と外車の代表的な車種をご紹介致しました。FR車が好きで、運動性能に拘りたい方は是非FMRスポーツカーに乗ってみてください。