自動車が前に走る場合、車体後方で意図的にダウンフォースを発生させると自動車の安定感は飛躍的に高まります。リアの安定感が高まることでブレーキングや高速コーナリングでに姿勢が安定し結果的に速く安全に走ることが可能です。車のボディリア側はダウンフォース発生させる上で制約が少なく、エアロデバイスによるチューニングも容易です。リアにダウンフォースをプラスオンするには「ウイング」を装着することが一番効率の良いチューニングです。
この記事では車体リアセクションでのダウンフォースの必要性/増やす方法を皆様にシェアさせて頂きます。
Contents
1.リアダウンフォースの役割
車体後方で発生させるリアダウンフォースは主に「リアタイヤのグリップ」を高める為に働きます。リアタイヤのグリップが高まることでブレーキングや旋回時の車体安定感が高まり不安定な挙動変化やオーバーステアが減少します。
高速高負荷時のリアタイヤの安定感向上
ダウンフォースを前後で別けるとリアダウンフォースは車体後輪の接地性を向上させる役割を持ちます。自動車を早く安全に走らせる上で最も重要なことはリアタイヤの接地性向上、すなわちリアの安定性です。
リアのダウンフォースは車体全体のダウンフォースに加えて更にリアタイヤ付近にダウンフォースを増加させることで後輪に大きな設置荷重をもたらすエアロダイナミクスです。
リアダウンフォース増によるリアタイヤグリップ向上
局所的にリアのダウンフォースを増加させるとリアタイヤの接地荷重が増す=摩擦係数の向上によりリアタイヤのグリップ力が増加します。
リアタイヤのグリップが高くなることでスポーツ走行シーンにおける「ブレーキング」と「高速コーナリング」が良い方向にアップデートされます。
ブレーキングの安定感向上/制動距離短縮
リアダウンフォースを増やすことは車体の後端を押さえつける力が働くということです。つまり減速時にリアタイヤを上手に使え制動距離の短縮に繋がります。
さらに減速時に起こる「ノーズダイブ」の姿勢変化量も減少しますので、リアタイヤの接地荷重の減少も抑えられることでブレーキングの挙動も安定します。
高速コーナーリングのスタビリティ向上
リアダウンフォース向上によるリアタイヤの荷重増加は「FR・MR・RR・AWD」を含む後輪駆動においてトラクション性能の向上にも貢献します。
ダウンフォース増加による車体の安定性向上とタイヤグリップの向上によるトラクション性能の向上という複合的なポテンシャルアップによって高速コーナリング時のスタビリティが高まります。
高速コーナーでのスタビリティが高まることでドライバーは、よりアクセル開度を上げられる為に高速コーナリングの区間タイムが向上します。
ダウンフォースの基本的な内容については下の記事をご参照ください。
しかし、FFレイアウトを持つ前輪駆動車においてリアダウンフォースの向上は必ずしもプラスに転じる訳ではありません。
FF車にリアダウンフォースを増加させるとトラクションが不足するというデメリットも生じます。
2.リアのダウンフォースは発生させやすい
車が前に進むものと仮定すると車体の後端は空気が吹き抜けるだけです。つまり前から流れてきた空気を上手にダウンフォースに変換できるエアロデバイスがあれば、容易にダウンフォースの発生と効果を発揮させることが可能です。
車体リアはダウンフォース発生の制約が少ない
車は基本的に前進するものであり、スポーツカーやレースカーは速さを競うマシンです。スポーツ走行時に流れる走行風はボディの前方から後方へと吹き抜けていきます。
つまりボディのリア側(後端)は最後に風を掴む場所なので吹き抜けた風を邪魔する物が無く、ダウンフォースを比較的簡単に得られます。
車体の後端はダウンフォース発生に伴うボディ構造上の制約が少ないのでエアロデバイスによってチューニングするだけでダウンフォースを発生させることが可能です。
フロントのダウンフォースの発生は難しい
上記の通り車体が走る上で流れる走行風はフロントからリアへ吹き抜けます。走行風が一番最初にぶつかるフロントセクションに大掛かりなエアロデバイスをインストールすることは制約が多く物理的にも難しいです。
更にフロントエンジン車であればエンジンを冷却するラジエターエアーによって揚力も発生しますのでダウンフォースの効果を発揮させることも難しいのです。
フロントに比べてリアのダウンフォースは増やしやすいことが解りましたので次章では「リアダウンフォースを増やすチューニング方法」についてお話させて頂きます。
3.リアのダウンフォースを生み出す空力パーツ
リアのダウンフォースをプラスオンできる空力パーツの代表格が「ウイング」です。ウイングにも様々な種類がありますが、エアロデバイスその物にダウンフォースを生み出す効果があるものに「GTウイング」があります。
車体リアを押さえつけるリアウイング
リアのダウンフォースを増やす空力パーツと言えば「リアウイング」と連想される方が多いと思います。
しかし、一言にリアウイングと言っても「スポイラー・ダックテール・GTウイング・ガー二ーフラップ」など様々なエアロデバイスが存在します。
リアトランクに設置するスポイラー
小型のウイング形状の物からダックテール形状まで様々なリアスポイラーが存在します。
多くのリアスポイラーの役割はスポイラーその物がダウンフォースを発生させるエアロデバイスという訳では無く、前方から流れてきた空気を整流する、もしくは跳ね上げることにあります。
つまり車体全体で発生させるダウンフォースに関与する空力パーツである場合が多いです。
スポイラーやダックテール形状によって跳ね上げられた空気は車体下面に流れる空気の流速を高めてくれるのでリア側アンダーフロアでのダウンフォース増加に貢献します。
単体でダウンフォースを生むGTウイング
車体後端に高くそびえ立つ「GTウイング」はウイングその物でダウンフォースを発生させるエアロデバイスです。
つまり車体にダウンフォースをプラスオンする為にはGTウイングが必要となります。
GTウイングはウイングの上面と下面に流れる空気に流速差を生み出す構造となっており、GTウイングを装着するとウイング下面は早く上面は遅く空気が流れます。
その結果ウイングその物に負圧が発生し、ウイングによるダウンフォースが生まれ、ウイングは地面に吸い寄せられます。
ウイングが地面に押さえつけられることでウイングとボディを繋ぐブラケットがボディを地面に押し付けるのでリアタイヤに大きな面圧がかかります。
GTウイングの効果を正しく発揮する為には強度の高いブラケット/ステーをダウンフォースを受け止めるボディフレームにしっかりと固定する必要があります。
ウイングの流速差を高めるガーニーフラップ
ガーニーフラップとはGTウイング上面後端に取り付けるL字型の空力パーツです。
ガーニーフラップはGTウイングによって発生したダウンフォースを更に増加させるエアロデバイスでウイング上面の空気の流速を意図的に遅くする働きを持ちます。
ガーニーフラップによってウイングの上下面の流速差が大きくなることでより大きな負圧を発生させ強大なダウンフォースを生み出すことが可能です。
リアの下面流速を高め整流するディフューザー
ダウンフォースの分類では下面、いわゆる「アンダーフロア」に属するエアロデバイスがリアディフューザーです。
リアディフューザーは流れてきた空気の排出効率を高めるために排出口を斜めに跳ね上げ、縦フィン(スプリッター)が配列された構造を持ちます。
ディフューザーによって整流された空気は排出流速が高まりますのでリア側のアンダーフロアにて負圧が発生しダウンフォースを生み出します。
リアの揚力を低減させる空力デバイス
車体のリアはフロントに比べて揚力は小さいですが、ゼロではありません。リアのダウンフォース効果を余すことなく発揮させるためには、ダウンフォースと逆の働きをする「揚力」の低減も必要不可欠です。
リアエアロバンパー
多くのスポーツカーやレーシングカーにはリアバンパーが装着されています。
リアバンパーは設計上、前方から流れてきた走行風を受け止める形状になってしまい空気が上手く抜けず滞留を招き「揚力」と「ドラッグ」を発生させてしまいます。
この現象をパラシュート効果と呼びますが、パラシュート効果を低減させるエアロデバイスが「リアエアロバンパー」です。
エアロバンパーは空気が滞留しそうな箇所にエアアウトレットを設ける事でスムーズに走行風を排出します。
リアエアロフェンダー
リアタイヤを収めるボディスペースが「リアフェンダー」です。リアフェンダーにはリアタイヤが巻き上げた走行風が吹き溜まり揚力を発生させてしまいます。
リアのダウンフォースを余すことなく活かす上でフェンダー内で発生する揚力(リフトフォース)は不必要な空力的要因です。
フェンダー内に滞留する空気はリアタイヤ後方にエアアウトレットを設けたエアロフェンダーで排出することが可能です。
リアのダウンフォースロスを生む揚力対策をしっかりと行うことで計算通りのダウンフォースを発生させることが可能です。
以上で「リアダウンフォース」に関する記述を終えさせて頂きます。
車体全体では無くピンポイントでダウンフォースを高めることによって姿勢や挙動、トラクション性能を高めることが可能です。
空力もピンポイントチューニングを行うことで走行シチュエーションに応じ最適化が可能です。