S2000フロントミッドシップ

運動性能が高いFRスポーツの特徴や条件とは

高い運動性能が与えられたFRスポーツカーの条件は「ボディバランスが優れていること」そして「優れたボディバランスを活かせるサスペンション設計であること」、「リアのトラクションのコントロールが行いやすいエンジン特性であること」を満たす必要があります。この条件がクリアされると「走る・曲がる・止まる」という、車の基本性能の3原則が高められ、ピュアスポーツFRと呼ぶにふさわしいFRスポーツカーが出来上がります。

BMWMシリーズ出典:Pixabayより

この記事ではスポーツ走行に適したFR車の条件についてシェアさせて頂きます。

 

 

 

1.高い運動性能を生み出すFRレイアウト

FR車に限らず、全てのスポーツカーの運動性能を決定づける大きな要素がボディバランスです。「走る・曲がる・止まる」という優れた運動性は、前後重量配分の最適化により成し得ます。特にFR車は、理想とされる前後重量配分50:50を達成できる唯一のレイアウトなのです。

2000フロントミッドシップ

 

 

前後重量配分50:50

車体の前後重量配分は重心点の位置を示しており、重量配分が50:50だと重心点は車体の中心付近に位置しています。

重心点が車体中心に存在し、尚且つ低い位置にあることがスポーツカーにはとても重要で、その理由は慣性モーメントの影響にあります。

スポーツカーを含む自動車は、走行中にダンピングから成るピッチングやローリング絶えず繰り返しています。

この時、車体の重心点に慣性モーメントの影響を受けるので、重心が中央付近で低い位置にあるほど、慣性モーメントの悪影響を受け難いのです。

つまり、運動性能を高めるには前後重量配分50:50付近が理想と言え、生産車でこの重量配分が実現できるのはFRレイアウトを持つ後輪駆動車だけなのです。

 

 

 

優れたボディバランスを生み出す技術

FRスポーツにとって、設計が持つ「素性=ボディバランス」は運動性能を、大きく左右する重要なポイントです。

優れたFRスポーツカーは、前後重量配分が最適化され「50:50」を実現しています。

このボディバランスを実現する為に、用いられる設計方法が「フロントミッドシップレイアウト」で、必要に応じて投入される技術的デバイスが「トランスアクスル構造」です。

 

 

フロントミッドシップレイアウト

FR車の構造から得られる運動性能を最大限に高めるには、優れた前後重量配分を実現できる「フロントミッドシップレイアウト」が必要不可欠です。

フロントミッドシップレイアウトとは前輪車軸よりも後方に、キャビン(運転席)よりも前方にエンジンを車体中央に搭載することを言います。

重量物であるエンジンがフロントミッドにマウントされることで、車体の中央付近に重心点を設定できるため、慣性モーメントの影響を受け難く、飛躍的に車体の運動性能を高めることができます。

FR車に採用される「フロントミッドシップ」レイアウトを徹底解説

 

 

トランスアクスル構造

FR車の運動性能を極めるには「トランスアクスル」は必要不可欠な要素と言えます。

トランスアクスルとはトランスミッションとデファレンシャルを融合した動力伝達機構(ドライブトレイン)で、トランスアクスルはリアに搭載されます。

つまり、FR車でありながら、重量物であるミッションをリアにマウントできるため、前後重量バランスの最適化、ならびに駆動輪の接地荷重が稼げます。

モータースポーツ界の頂点に君臨するF1の前後重量配分は48:58と、ミッドシップながらフロント軸荷重も大きな数値を得ています。

レクサスLF-Aはトランスアクスル構造を採用することでFR車でありながら、F1と同じ前後重量配分を実現し、高いトラクション性能を得ています。

優れた前後重量配分はトランスアクスルによって実現できる

 

 

 

 

 

2.ハンドリング特性に優れた足回り設計

優れたハンドリング特性は、ボディバランスと接地性変化が少ないサスペンション設計によって得られます。FRスポーツカーにとってサスペンションはハンドリングの「命」と言っても過言では無く、アライメント変化が少なく常に安定したトラクションを生み出すサスペンションが求められます。

ダブルウィッシュボーン式サスペンション
インホイールタイプダブルウィッシュボーン 出典:ホンダ技研より

 

 

アライメント変化を起こし難い足回り設計

アライメント変化とは、サスペンションの伸縮によって、サスペンションアームのストロークに伴うホイールアライメントの変化量のことです。

サスペンションが動く限り、アライメント変化は必ず起こるもので、全ての自動車に起こります。特にサスペンションアームが短いと、軌道の変化が大きくなるので、アライメント変化は大きくなる傾向にあります。

つまり、アライメント変化を起こし難いサスペンション設計とは、サスペンションアームの長さを稼げるマルチリンク式やダブルウィッシュボーン式サスペンションとなります。

 

 

 

マルチリンク式サスペンション

言葉の通り、数本のアーム(リンク)でサスペンション構造を構成するサスペンションです。

一般的には4本以上の独立したアーム(4リンク)を、三次元に配置してハブナックル(ハブ)を支持する構造です。

全てのアームが物理的に離れた構造を持つことで、配置の自由度が増し、より細かく精密なセッティングを出すことが可能となります。

また、数本のアームによってハブを支持することで、ジオメトリー変化を厳密に管理でき、タイヤを路面に正しく接地=面圧の変化が少ない特性を持ちます。

採用例としは、後輪駆動車のリアサスペンションに採用されることが多く、BMWではさらにアームをプラスした5リンクと呼ばれるマルチリンク式サスペンションをリアに採用しています。

 

 

 

 

ダブルウィッシュボーン式サスペンション

 

アッパーアームとロアアームという2つのアームを、上下にレイアウトするサスペンション構造を、ダブルウィッシュボーンと言います。

この2本のアームは、ボディ側の支点が2か所と、ハブナックル側の支点が1か所という「A字型」の構造を持ちます。このアーム形状が鳥の叉骨(Wishbone)に似ていることから「ウィッシュボーン」と呼ばれています。

現在では様々なバリエーションが存在し、アームの形に関係なく、上下2組のアーム(アッパーアーム・ロワアーム)でタイヤを支持するサスペンションの総じてウィッシュボーン形式と呼びます。

上下のアームがボディとハブを繋ぐ構造によって、非常に高いサスペンション剛性を発揮します。

そのため、コーナリング中に発生する応力が「スプリング/ダンパー」に影響を与えないため、サスペンションのストロークが非常にスムーズな特性を持ちます。

サスペンションリンクの全体構成が平行四辺形に近い形状なので、バンプ/リバンプ時のキャンバー角変化を最小限に抑える事ができるため、タイヤの接地性変化が少なく、グリップ力の変化が少ないです。

また、上下のアーム長やアームの取り付け位置を変更することで、ジオメトリー設定の自由度が高く、細かなセッティング作業を繰り返す、レーシングカーに多用されるサスペンションレイアウトです。

 

 

 

 

 

3.トラクションを掛けやすいパワー特性

FRレイアウトを持つ後輪駆動車にとってエンジン出力特性は、第二のアクセルと言っても過言ではありません。フロントミッドシップレイアウトを持ち、リアのトラクションが高いFRスポーツにおいてもコントローラブルなエンジン特性は、必要不可欠なハンドリングの要素なのです。

S2000パワートレイン

 

 

トルク変動の少ない自然吸気エンジン

アクセルワークで車の姿勢を変えたり、コーナリングを自在にコントロールできるところがFRスポーツの醍醐味と言えます。

つまり、優れたFR車が持つ、コントロール性の大きなパートを担うものにエンジンのパワー特性も含まれており、コントロール性が良いエンジンの代表格に「自然吸気(NA)エンジン」が挙げられます。

NAエンジンのコントロール性は、自然吸気ならではの穏やかなトルク特性と、アクセルワークに即座に反応するレスポンスにあります。

フラットなトルク特性ではないエンジンだと、パワーバンドに突入した途端にリアタイヤのトラクションが失われるリスクがあります。

そして、アクセルワークに対してレスポンスが悪いエンジンだと、コーナリングでの絶妙なコントロールにタイムラグが出てしまいます。

つまり、トルク変動が少なく、レスポンスの良いNAエンジンはFR車を操る事において、最も適したパワーユニットと言えます。

 

 

 

低速トルクが厚い過給機付きエンジン

一般的に過給機エンジンはトラクションをコントロールすることが難しいです。しかし、過給機エンジンでも過給機の特性によってはコントロール性が高い物も存在します。

FR車にとって扱いやすい過給機エンジンは低速トルクが厚く、パワーの出方に緩急が少ないとトラクションを失い難いです。

つまり、高回転でパワーが発生する特性では無く、低回転域でもタービンが回るツインターボエンジンや、ターボラグが無いスーパーチャージャーエンジンがFR車にマッチします。

 

 

シーケンシャルツインターボ

プライマリータービンによって低回転域から過給が立ち上がり、セカンダリータービンによって高回転域へのパワーを維持する過給システムが、シーケンシャルツインターボです。

ツインターボエンジン出典:pixabayより

従来のシングルターボでは、狙った設定のパワーに合わせたタービンサイズをチョイスすると、低回転域でのパワーが得られなかったり、逆に高回転でパワーが得られないというエンジン特性になりがちでした。

しかし、低回転域用のターボと高回転域用のターボを備えるツインターボであれば、過給の立ち上がりが良くて過給圧の落ち込みも少なく、高回転までパワーフが伸び、パワーの出方に緩急が少ないエンジン特性が得られます。

つまり、ツインターボエンジンの特性であれば、FR車においても扱いやすくコントロールしやすい特性が得られやすいです。

 

 

スーパーチャージャー

ターボは排気ガスでタービンを回して過給を行いますが、過給方式にベルトドライブを用いる過給機がスーパーチャージャーです。

スーパーチャージャーは、エンジン回転数とベルト駆動を連動させて、タービンを回すので過給の立ち上がりが良く、優れたエンジンレスポンスを発揮します。

つまり、大排気量NAエンジンのようなフラットでトルクフルなエンジンフィーリングが、スーパーチャージャーによって得られます。

スーパーチャージャーの構造上、高回転域のパワーの伸びは得られにくいですが、フラットなエンジン特性がFR車と相性が良く、コントロールしやすい過給機エンジンと言えます。

 

 

 

 

 

4.高い運動性能を持つ一級品のFR車

「優れた前後重量配分・優れたハンドリング特性・扱いやすいエンジンフィール」という優れたFRパッケージの条件を満たしたFRスポーツは一級品です。これらの条件を満たすFRスポーツの代表格は「BMWのMシリーズ・マツダのRX-7・ホンダのS2000」で、全車にボディバランスを突き詰めるという共通点があります。

BMWM4出典:pixabayより

 

 

BMWMシリーズ

「Freude am Fahren=駆け抜ける喜び」を掲げるドイツのBMWは、コンセプト通りの運動性能が高いFR車を生み出すメーカーです。

特にBMWが放つ「Mシリーズ」は「エンジン・ボディ・足回り」の全てがハイパフォーマンスなスポーツカーです。

BMWのMシリーズは、FR車として全世界のメーカーがベンチマークするほどの完成度で、ユーザーからもプロドライバーからも「FR車のお手本」と称されます。

BMWの車は、前後重量配分50:50に拘り設計され、リアに搭載される5リンク(マルチリンク)サスペンションを持ち、高いコントロール性とトラクション性能を発揮します。

 

 

 

マツダRX-7 (FD3S)

別名「ロータリロケット」と呼ばれるマツダのRX-7(FD3S)は、非常にパワフルでありながら、旋回性能も高いハンドリングマシンです。

RX-7のパワーユニットは、シーケンシャルツインターボロータリーエンジンを搭載し、低回転から高回転まで力強く吹け上がります。

このターボチャージャーによる大パワーを受け止めるために、前後重量配分50:50を実現し、サスペンションも前後ダブルウィッシュボーンを搭載します。RX-7は日本が誇るピュアスポーツカーの一台です。

 

 

 

ホンダS2000(AP1・AP2)

「リアルオープンスポーツ」をコンセプトに開発されたホンダS2000は、RX-7と並ぶピュアスポーツカーの一台です。

オープンカーでありながら、リアルにスポーツできるマシンを目指して、シャーシは徹底的に鍛え上げられ、運動性能を高める為に、前後重量配分50:50を実現しています。

パワーユニットは、リッター125馬力を達成する高回転型のVTECエンジンを持ち、これをフロントミッドに搭載します。

そして、前後にインホイールタイプのダブルウィッシュボーン式サスペンションを装備し、高いコーナリング性能とトラクション性能を実現しています。

 

優れたFR車の条件を満たす、スポーツカーを一部ご紹介しました。

優れたFRスポーツカーとは、「ボディバランス・サスペンション構造・エンジン特性」のバランスが取れている車です。

世の中には、もっと多くの優れたFRスポーツカーが存在し、やはり全ての車が条件を満たす設計を持っています。

7件のコメント

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