優れたFFスポーツカーとは操る楽しさがあり、それに速さが伴うことです。具体的には、FFレイアウトが持つネガティブ要素であるアンダーステアを打ち消すサスペンション構造やエンジン出力特性が備わっていることが優れたFFスポーツカーの条件になります。実際の車では歴代のシビックタイプRやインテグラタイプR、外車ではルノーメガーヌR.S.シリーズがそれにあたり、多くのドライバーにドライビングプレジャーを与えています。
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この記事ではスポーツ走行に適したFF車の条件についてシェアさせて頂きます。
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1.FFスポーツカーとして評価が高い車
全世界で「走行性能」に高い評価を受けているFFスポーツカーの代表格はホンダの「シビック/インテグラ」タイプRシリーズとルノーのメガーヌR.S.です。このシビックタイプRとルノーメガーヌR.S.は、ドイツが誇る生産車を鍛える場として名高い「ニュルブルクリンク」にて開発競争を行う名実ともに優れたFFスポーツカーです。
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ホンダFFタイプR系統
ホンダが誇るタイプRとは、自然吸気ながらリッター100馬力以上を絞り出すVTECエンジン(ターボモデルも存在)を持つ、FFレイアウトを代表するスポーツカーです。
FFレイアウトで起こり得るスポーツドライビングのネガティブ要素を打ち消す為に、ベースモデルとは一線を画す鍛えられたシャーシを持ちます。
具体的には、速く走る、すなわち高いグリップのタイヤを使うために、ボディはタイプR専用に鍛えられ、剛性が高められています。
そしてサスペンションも高いグリップのタイヤに合わせてタイプR専用に「スプリング/ダンパー減衰力」がチューニングされており、走る事に特化したFFスポーツとなっています。
タイプRは別名「公道を走れるレーシングカー」と呼ばれています。
ルノーメガーヌR.S.系統
ルノースポールの中でも特にスポーツ性能を意識したモデルがメガーヌR.S.です。
直列4気筒16バルブ直噴ターボエンジンと電子制御6速AT(6EDC)トランスミッションによって強烈な加速性能を生み出します。
足回りには、常にフロント荷重が掛かるようにマクファーソンストラットタイプのサスペンションをベースに改良されたDASS(ダブル アクシス ストラット サスペンション)を持ちます。
ブレーキシステムには、フロントにBrembo製4ピストンモノブロックキャリパーを持ち、ブレーキディスクの径は355mmに拡大され、リアはTRW製モノピストンキャリパーを採用し高いストッピングパワーを実現しています。
ルノーメガーヌR.S.は、シビックタイプRと並ぶ「世界最速の量産車FFスポーツ」の1つです。
2.優れたFFスポーツのハンドリング特性
前輪駆動車はエンジンとトランスミッションが横並びに置かれエンジンルームマウントされるレイアウトを持ちます。FFスポーツカーでもレイアウトは同じで、フロントヘビーな前後重量配分となり、慣性モーメントの兼ね合いでアンダーステア傾向を持ちます。優れたFFスポーツカーのハンドリング特性とは、FFレイアウトが持つアンダーステアを減らし、コーナリングに有利なハンドリング特性を示す工夫が施されています。
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前輪駆動が持つコーナリング特性
FFレイアウトを持つ前輪駆動者は、前後重量配分が前よりのフロントヘビーな重量バランスを持ちます。
コーナリングを行う時にフロントヘビーだと、車体の前半の重量物(エンジン/ミッション)に慣性モーメントが働く為、外側に引っ張られてしまいます。
そして旋回に必要な操舵と加速をフロントタイヤのみで行うFF車は、旋回に使えるフロントタイヤのキャパシティーが少なくアンダーステア傾向です。
このフロントヘビーレイアウトによる慣性モーメントで外側へ引っ張られる現象と、前輪駆動によるタイヤキャパシティーの不足が足されることで、前輪駆動車「FF」は強いアンダーステア特性を持つのです。
FFレイアウトが持つアンダーステアを減らす設計
通称「FF」と称される前輪駆動車は旋回/加速をフロントタイヤのみで行い、かつエンジンとトランスミッションがフロントに設置されているフロントヘビーバランスにより強いアンダーステアを示します。
このFF車特有の設計によるアンダーステア特性を、上手く減らす工夫やセッティングが施されているとハンドリング特性が優れたFFスポーツカーになります。
荷重移動で姿勢をコントロールできる
FF車のハンドリングにとって重要なことは、アクセルのオン/オフやブレーキングで起こる荷重移動によって、姿勢のコントロールが可能なことです。
荷重移動によって姿勢のコントロールができるFF車は、前輪駆動のネガティブ要素であるアンダーステアを減らすことが可能となり、旋回ラインの自由度も高く、ハンドリング特性が良いと言えます。
優れたハンドリング特性を持つ具体例としては、アクセルオフによるフロント荷重の増加にて、車のノーズがイン側を向く挙動を示すことです。
そしてブレーキングの加減によってノーズがインを向く、荷重移動の加減によってリア荷重が適度に抜けることで、ややオーバーステアな挙動を示すことです。
転がるリアタイヤを使いながら旋回できる
FFスポーツカーで優れたハンドリング特性を持つ判断基準としては、荷重移動の加減によって車の姿勢をコントロールし、FFレイアウトが持つアンダーステアに対処できることが挙げられます。
要するに、アクセルのオン/オフやブレーキングによってオーバーステア特性を引き出せるか否かということです。
しかし、単にオーバーステアであれば良いという訳では無く、オーバーステアの内容が重要なのです。
FFレイアウトを持つ前輪駆動車が発するオーバーステアは、慣性モーメントの変動によってリアタイヤの接地荷重の低減で起こるオーバーステアです。
分かりやすく表現するとアクセルオフ/ブレーキングによってフロント荷重が増え、リア荷重が減ることでリアタイヤの接地が甘くなりリアタイヤのグリップが失われることでリアがブレイクする現象です。
しかし、リア荷重が抜けすぎてしまうスピンやハーフスピンのような挙動が出てしまう、レベルの低いオーバーステア特性では速く走れず優れたハンドリング特性とは言えません。
ハンドルの舵角でいうとオーバーステア特性の時は、カウンターステアを切らずに済む程度のニュートラル~弱オーバーステアが最適なハンドリングバランスです。
具体的には、ターンインの時に内側のリアタイヤをわずかに引きずりながらブレイクしていくことです。
このような特性を示すFFスポーツカーのリアタイヤは摩擦によって発熱し高いグリップを発揮し、高い旋回速度を保つことができます。
3.FFスポーツとして優秀な設計とは
スポーツカーを創る上で最も重要なことは、運動性能を左右する足回り関係を正確に動かし、エンジンパワーを受け止める為の、強固なボディを設計することです。この前提条件をクリアした上で、FFレイアウトを持つ前輪駆動車でスポーツカーを開発する場合には、FFレイアウトが持つネガティブ要素を減らす為に、タイヤの接地性変化が少ないサスペンション設計がとても重要です。
FFレイアウト「生産効率が持つ呪縛」
フロントエンジンフロントドライブレイアウトを持つ車は、エンジンルーム内にエンジンとミッションが連結され横置きに搭載されるため、幅広く横に長いスペースが必要となります。
このパワートレイン搭載の為に必要な幅広いスペースによって犠牲となるものはフロントのサスペンション設計に必要なスペースです。
一般的なFF車のフロントサスペンションは少ないスペースと少ない部品点数で構成できるマクファーソン式ストラットサスペンションを有することが多いです。
FFレイアウトは大衆車に多いレイアウトでもある為、コストが少ないサスペンション設計がなされている場合が多く、これはリアのサスペンション設計においても例外ではありません。
FF車のリアサスペンションにはトーションビームと呼ばれる左右のタイヤを一本のバーで連結し、アーム点数を減らすレイアウトが多く用いられます。
つまり、大衆車の代表であるFFレイアウトの車が持つサスペンション形式は「フロントストラット式/リアストラット式」または「フロントストラット式/リアトーションビーム」という組み合わせが多くなる傾向にあります。
FFレイアウトが持つネガティブ要素を減らす設計
FFレイアウトを採用する前輪駆動車は、生産車のコスト低減を目的としてFFレイアウトを採用しています。
上記にある通り、FFレイアウトはエンジンとトランスミッションを横置きに配置することで動力部の部品点数の削減を成し遂げます。
横置きレイアウトの影響とコスト削減の観点からフロントにはストラット式サスペンションを、リアにはストラット式もしくはトーションビーム式サスペンションを採用する車が多いです。
その結果、タイヤの接地性変化が大きいサスペンション設計となり、スポーツドライビングには適さないネガティブ要素が生まれます。
優れたFFスポーツカーを設計するにあたり、FFレイアウトが持つネガティブ要素を減らすことがドライビングプレジャー「速さ/楽しさ」に大きく貢献します。
設計思想を正確に再現できるボディ
FFレイアウトを持つ前輪駆動車のスポーツ性能をフルに発揮するには、FF車が持つネガティブ要素であるアンダーステアを軽減できる足回り設計やエンジンの出力特性が必要です。
しかし、これらの要素を設計通りに発揮するには、地面からの入力やエンジンパワー、外因的な全ての負荷を受け止める強靭なボディが必要不可欠です。
このボディやシャーシと言われる車の基本コンポーネンツの設計がとても重要で、計算されたの全体強度や剛性が発揮されて、はじめて運動性能を決定する「アーム・ショックアブソーバー」などのセクションを設計通りに働かせることができます。
FF車に限らず、スポーツカーを含む全ての自動車にとってボディ設計は最も重要なポイントです。
接地性変化の少ないサスペンション構造
一般的にFFレイアウトの車に搭載される通称「ストラット式サスペンション」はホイールアクスル(ハブ)とサスペンションとボディが連結される構造の為、コーナリング時に横の力がサスペンション(ショックアブソーバー)に加わります。
つまり、ストラット式はショックそのものに力が加わりやすい設計の為、しなやかなショックストロークが阻害されやすくタイヤの接地や面圧の変化が生まれやすい構造です。
さらにリアに搭載されることが多い「トーションビーム」は左右のホイールが一本のバーで連結される構造の為、コーナリング時にイン側のタイヤの接地圧が大きく低減し、タイヤが地面から離れる「インリフト」を誘発しやすいサスペンション構造です。
このことから純粋なスポーツカーのサスペンションとしてタイヤの接地性変化を招きやすいストラット式サスペンションやトーションビームは不向きです。
FFレイアウトであってもスポーツドライビングを前提とするならば、前後ともにショックに横方向の外力が掛かり難く、タイヤの接地性変化の少ないマルチリンク式サスペンションやダブルウィッシュボーン式サスペンションが優れたハンドリング特性を得るには有利に働きます。
4.FFスポーツの優劣を決めるセッティング
FFスポーツカーを速く楽しく走らせる為に、必要なことはFFレイアウトが持つネガティブ要素を打ち消すセッティングです。もちろんシビックタイプRのようにノーマルでネガを消すセッティングが施されている車もありますが、そうでない車もあります。具体的には、前輪駆動かつフロントヘビーが持つ弊害を「サスペンション・デファレンシャル・エンジンの出力特性」をセッティングによってバランシングさせることで減らしていくことです。
フロントタイヤのみで受け止められるパワーフィール
FFスポーツカーにとってエンジン、特にパワーの出方(出力特性)はハンドリングを左右する重要なファクターです。
アクセルを踏み、スロットルが開くことでエンジンの回転は上がり回転馬力、すなわちエンジンパワーが出てきますが、同時に車の荷重はリアに移行します。
つまり、単純にアクセルを開けるとリアタイヤの面圧が上がってグリップが増し、フロントタイヤの面圧は下がりフロントのグリップは減る傾向にあります。
これをFFレイアウトに置き換えて考えると、FF車は前輪駆動なので荷重が減ってタイヤの面圧が下がりトラクションが不足することになります。
実際にFF車はコーナリングからの立ち上がりでトラクションが不足にしやすい一面を持ちますので、FF車にとってエンジンの出力特性はとても重要になります。
具体的には、エンジンパワーの出方に緩急が無く、トルクがありフラットなパワーフィールを持つエンジンが、フロントの荷重変動を起こし難く前輪駆動車には有利です。
立ち上がりでトラクションが逃げないデファレンシャル
急激にトラクションが抜けないエンジン出力特性に加え、FF車でスポーツ走行を行う際にトラクションの
要となるものがデファレンシャルギヤの特性です。
デファレンシャルギヤ=リミテッドスリップデフ(LSD)とは通称「デフ」と呼ばれる左右のタイヤの回転差を吸収する機構のことです。
このデフには用途別に複数の種類があり「オープンデフ→ビスカスデフ→トルセンデフ→ヘリカルLSD→機械式LSD」の順に左右の駆動力配分が均等に近づき、効きが強くなります。
FF車でサーキットやワインディングでスポーツ走行を行う場合には最低ヘリカルLSDは欲しいところで、出来ればセッティングできる機械式LSDがあるとなお良しです。
アンダーステア特性持つFF車の場合には、コーナーの進入を妨げず、立ち上がりのトラクションは稼ぎたいことからアクセルオンの時にのみ作動する1way(ウェイ)タイプが最適なチョイスとなるでしょう。
ドライバーがステア特性をコントロールできるサスペンション
スポーツドライビングを目的としたスポーツカーにおいてサスペンションは最も重要なセッティングツールの一つです。
特に構造上、ステア特性がアンダーステア傾向を示すFFレイアウトの前輪駆動車において、サスペンションは構造上のネガティブ要素を軽減するために必要なデバイスとなります。
有利なサスペンション形式としては、横からの応力が掛かり難く、素直でしなやかにストロークするダブルウィッシュボーンやマルチリンクで、そのサスペンションレイアウトを形成するショックアブソーバーの特性がハンドリングに大きな影響を与えます。
まず、FF車は立ち上がりで駆動輪の面圧が下がりトラクションが抜けコーナリングフォースが減る傾向にあります。
この立ち上がりでのコーナリングフォースを失わない為に、加速時に最適な前後車高バランスに仕上げる必要があるので最適化されている、もしくは車高調整機能があると良いでしょう。
そして立ち上がりでの急激な姿勢変化を抑えてトラクション/コーナリングフォースの効率が良い姿勢をキープするためにダンパーの「伸び側/縮み側」の減衰力特性がFFレイアウトに最適化もしくは調整できるとベストです。
具体的には、フロントの伸び側の減衰力が高く、リアの伸び側が弱いと曲がりやすくドライバーがコントロールしやすい特性を持ちます。
FFレイアウトを持つ前輪駆動車はドライビングプレジャーを求めると少々不利です。
しかし上記の強いボディの上に「パワー・デフ・足回り」がセッティングによってバランスシングされると車の持つポテンシャルが引き出され「速さ/楽しさ」に繋がります。