速さを追求するスポーツカーやレーシングカーにとってタイヤのグリップを高める重要なファクターがダウンフォースです。昨今のスポーツカーではダウンフォースをアンダーフロアで発生させる手法が主流となり「下面エアロ」などとも称されるほど床下のエアロダイナミクスを追求しています。アンダーパネルなどの空力パーツによってフラットボトム化されたアンダーフロアは、流れる空気の整流を行い「滞留・遊離」を防ぐことで下面流速を高め、ダウンフォースを発生させています。またセンターパネルやリアディフューザーなどの下面エアロによるダウンフォースはチューニングカーにとっても大きなアドバンテージとなり速さを競う車にとって無くてはならないエアロデバイスです
この記事では車体下面でダウンフォース発生させる下面エアロの仕組/方法について皆様にシェアさせて頂きます。
Contents
1.車体全体でのダウンフォースの捉え方
ウイングなどの空力パーツに頼らずともダウンフォースを得る方法があります。車体の上面と下面に流れる空気の流速差を設けることで車体フロアを地面に吸い寄せるダウンフォースが発生します。
車の上面と下面の空気の流れ
自動車を上下で別けると上面はルーフまでの全高や大きな凹凸を含むデザインによって空気の流れは下面に比べると遅くなります。
一方で自動車の下面、いわゆる車体裏側はパワートレインやドライブトレインによって細かな凹凸は無数にあるもののある程度フラットに設計されています。
このことから自動車の上下の空気の流れは上面が遅く、下面が早く流れることになります。
ダウンフォース発生のカギは上下の流速差
ダウンフォースと呼ばれる車体を地面に吸い寄せる空気の力は、車体の上面と下面の流速差が生まれることで発生します。
車体に沿う空気の流れは上側が遅く下側が早く流れることで負圧が発生し、ダウンフォースというエアロダイナミクスを得ることが可能なのです。
この上下の流速差は大きければ大きいほど強力なダウンフォースが発生します。
2.車体下面の流速を高めることが大きなダウンフォースを生む
車体の上面と下面の流速差によって負圧は発生しますが、流速差が大きくなることで負圧は大きくなりダウンフォースは増大します。つまり上面の流速は上げずに下面の流速を高めることができればドラッグ(抵抗)を増やさずにダウンフォースを高める事が可能です。
車体下面の空気を整流し上下の流速差を作る
車体のルーフ(上面)側を遅く、アンダーフロア(下面)側を遅くすることで車体全体でのダウンフォースが発生することがご理解頂けたかと思います。
この通称「下面エアロ」というアンダーフロアのエアロデバイスによって派手なウイングなどに頼らずにダウンフォースを生み出す方法が昨今のスポーツカーには多く採用されています。
下面のエアロダイナミクステクノロジーはフォーミュラーカー・箱車問わず様々なレースシーンで磨かれ発展を続けています。
下面に流れる空気の入口は狭く出口を広く
下面全体に流れる空気の流速を高めようとすると、空気の入る量は少なく排出量は大きくすることが望ましいです。
つまり、空気が入るフロントバンパー下部と地面までの車高は低い方が条件が良く、出口であるリアバンパー下部と地面までの車高は高い方が良いと言えます。
しかし前後の車高を極端に変えるとハンドリングに偏りが出てしまうので、一般的にはリアバンパー下部を迫り上げ開口部を大きくするレイアウトを取ります。
その結果入り口が狭く出口が広いアンダーフロアレイアウトとなり理想的な下面エアロ設計が誕生します。
下面に流れる空気をスムーズに流すフラットボトム
車体下面に入り込む空気の入り口を狭く、出口であるリアの開口部大きく取ることで流速を高める動線は完成します。
しかし、空気をスムーズに入り口から出口まで導くには車体下面の凹凸を無くすことが望ましいです。
通称フラットボトムと言われる樹脂・アルミニウム・FRP・CFRPなどのパネルを用いて行う車体下面のフラット化は、流れる空気の滞留や遊離を防ぎスムーズに出口へ導くことで飛躍的に流速が向上しダウンフォース増加に貢献します。
下面の流速が高まる所ほど大きなダウンフォースが発生
車体下面の入口出口の処理やフラットボトム化によってアンダーフロアの整流環境は著しく向上します。
この状態を下面エアロの基準とするとここから更にピンポイントでダウンフォースを高める方法がアンダーフロアに大きな窪みを設ける「アップスイープ」構造です。
車体下面全体とは別に更にダウンフォースを増加させるべき部分はハンドリングの要であるフロントタイヤ付近です。
左右タイヤの中心点の流速をアップスイープ構造によって高めることでダウンフォースが増加し、より高いタイヤグリップを得られることになります。
3.下面の流速を高め空力効果を生むエアロデバイス
下面の流速を高めて後方から一気に排出するには車体のアンダーフロア構造を整える必要があります。アンダーフロア構造を最適化するエアロデバイスには「フロントアンダーパネル・センターパネル・リアディフューザー」の3種類が存在します。
下面エアロを完成させる理想的なアンダーフロア構造
車のアンダーフロア構造を最適化し大きなダウンフォースを得るためには、「フロント・センター・リア」セクションごとに最適な構造にチューニングする必要があります。
フロントは空気が入り込む量の調整とフロントタイヤグリップを高める下面処理を行い、センターからリアにかけてはスムーズに出口へ空気が流れる下面処理を重点に行います。
入り口から出口までの空力処理を行い、ある程度フラットに整えたアンダーフロアをフラットボトムと言います。
車体下面前方を整流するフロントアンダーパネル
フロントの下面エアロに必要な役割は「入り込む空気量を少なくする・フロントタイヤ付近の流速を高める」ことの2点です。
つまり、フロントのアンダーパネルに相応しい構造は低くワイドな入り口部分を持ち、左右のフロントタイヤの中心点付近で左右のサスペンションアームの可動範囲を阻害しない範囲でアップスイープ設けることです。
アップスイープ部分の流速が高まることで、その付近に大きなダウンフォースが発生しフロントタイヤへかかる荷重が増加しフロントタイヤのグリップが増加します。
車体下面中央を整流するセンターパネル
フロントのアンダーパネルによって整流された空気はセンターセクションへ導かれます。アンダーフロア中央に設置されるセンターパネルに求められる性能は「流速を下げないこと」です。
つまり、理想的な構造は単純にフラットなパネルですが、車種や駆動方式によってはフラット化が難しい場合があります。
ドライブトレインがセンターに搭載されるエンジン・ミッション縦置きのFR・AWDスポーツカーにとっては車体センターを全てパネルで覆う事はドライブトレインのオーバーヒートに繋がる場合があります。
フロントエンジン車で縦置きレイアウトの場合、熱害が発生しない範囲でセンターのフラットを行うべきで熱害の心配がないレイアウトの車種の場合はセンターパネル形状に特に気を使う必要はありません。
下面の空気排出効率を高めるリアディフューザー
遊離させずにフロントからセンターに運ばれて来た空気はリアセクションでさらに流速を高めて排出することが望ましいです。
それはリアの流速が高まると必然的に全体の排出流速が高まるからです。整流されて運ばれてきた空気の流速を高めて一気に排出するリアのエアロデバイスが「ディフューザー」です。
ディフューザーの理想的な形状はデファレンシャルとマフラーを含むリアセクションを覆い、出口が大きく跳ね上げられ、整流フィンが設置されていることです。
このディフューザーによって流れてきた空気は整流されながらも一気に排出されることで下面の流速は高まります。
総括すると、下面に入る空気の入り口をフロントのアンダーパネルで狭め、センターパネルで綺麗に空気を流し、出口をリアディフューザーで拡大し下面全体の流速を高めることが下面エアロのセオリーとなっています。
そして下面エアロの整流動線上でタイヤが配置される箇所にアップスイープを設け部分的に大きな負圧=ダウンフォースを生み出す方法を組み合わせることがスポーツカーやレーシングカーでは定番の床下エアロダイナミクスとなっています。
以上でアンダーフロアでダウンフォースを発生させる「下面エアロ」に関する記述を終えさせて頂きます。
車体全体を地面に吸い寄せ安定感を高めるダウンフォースの基盤的存在である下面エアロは空力チューニングの基本にすべき項目かもしれませんね。